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[読書メモ]『残業学』


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p35
企業サイドも、働き方改革の旗を掲げてノー残業デーなどを設けるものの、「残業は減らして、利益は出して」といった無茶な要求を職場に押し付けているきらいもあり、結果的にサービス残業や管理職の労働時間が増えるなど、かえってブラック化しているようなところも出てきているようです。/世の中で喧伝されている働き方改革関連のニュースは「枝葉」ばかりを追いかけているように見えます。「木」も見ていませんし、ましてや「森」も見据えていません。本来問われなければならないのは、働き方の変革によって「日本をどういう社会にしていくか」ということです。

p38
「仕事が遅いから残業になるのだ」「残業になるのはタイムマネジメントができていない証拠」などというように、個人の能力の低さを残業に結びつける人はいませんか?

p41
過度な長時間労働には、仕事人生を生き抜くために必要な知識を学んだり、学び直したり、仕事を振り返ったりする時間を持てなくなるリスクもあるのです。

p46
イノベーションの源泉は新しいアイデアや知見を生み出すことですが、多くの場合、それは「既存の要素の組み合わせ」から生まれます。経済学者のシュンペーターは、イノベーションの本質を「新結合」と表現しました。イノベーションを起こすには、異なる領域にあるさまざまな物事やサービスを「かけあわせること」が必要なのです。そのために必要なのは「異質なもの」との出会いであり「世の中に対する高いアンテナ」です。折に触れて、日常を離れ、異質な出来事を体験したり、多様な人々と議論したりすることが重要です。繰り返しますが、革新的なアイデアの創出は必ずしも「時間」に比例するわけではないのです。いくら残業をしたからといって、良いアイデアが頭に浮かぶわけではありません。

p70
一般に日本以外の多くの国では、「ジョブ型」という雇用システムがとられています。これは、雇用契約時に結ぶ「職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)」という書類によって一人ひとり、明確に仕事の範囲が既定される仕組みです。まず「仕事」が存在し、そこに「人」をつけています。それに対して日本型の雇用システムは「メンバーシップ型」と呼ばれ、先に「人」を採用してから「仕事」を割り振ります。その結果、「必要な仕事に人がつく」のではなく、「職場に人がつき、それを皆でこなす」形になるため、「仕事の相互依存度」も高くなります。自分に与えられた仕事が終わっても、「職場のみんなが終わっていなければ終わりにくい」ところがあり、他の人の仕事を手伝う、若手のフォローアップを行う、といったプラスアルファが求められます。

p104
まず把握したいのは、残業が1日4時間といっても、人はそれ以上の時間を仕事のために費やしているということです。日本の労働時間は先進国の間でもトップクラスですが、「通勤時間の長さ」が状況をさらに特異なものとしています。/特に、都心部の平均通勤時間は、往復約2時間。これを足すと、睡眠や食事以外の家事の時間や家族とリラックスして過ごす時間が、国際的な水準から見て3割以上少なくなります。

p130
残念ながら、人は「経験」を積み重ねだけでは成長できません。「経験」したことについてのフィードバックを受け、振り返りを行って、次の行動に活かしていくことが「未来」に向けた学びとなります。

p142
しかし、事態はもう少し複雑です。「男は仕事をし、女性は家庭を守る」というのは、「仕事」と「家庭」をトレード・オフと捉え、一方が下がればもう一方が上がる、シーソーのように「バランス」させる発想です。

p143
「仕事」と「家庭」のトレードオフではなく、単純に「男性は仕事の量にかかわらずあまり育児をしない。一方で女性は仕事が増えてもしっかり育児をする」という、女性へ過剰な負荷がかかった状況なのです。

p148
残業の多くは「半径5メートルの職場」の中の、様々なパワーバランスや相互関係の結果、生まれてしまうものであり、それを変えるためのヒントもまた「職場」にあるからです。

p153
マネジメントの視点からすれば、「少し背伸びの経験ができる仕事」を適切に割り振っていくことは、部下育成において重要なポイントです。しかし、日本の管理職、マネジメント層は、そもそも適切な仕事の割り振り方など習うことのないまま、突然マネジャーになります。

p158
個人がその行動や意思決定を知らず知らずのうちに周囲の大多数にあわせてしまう強制力のことを、「同調圧力」と呼びます。

p161
素直に自分の思う通りに行動すれば最適な結果になるにもかかわらず、集団的な「腹の探り合い=予期」が失敗することによって、誰も望んでいない結果になってしまうのです。

p163
一般的に日本企業は「序列」を強く気にする組織です。伝統的に年功的な性格が強く、組織内の経験値がモノを言うところがあり、自分よりも先に組織にいる先輩、上司の顔を立てることへのプレッシャーもあります。/また、先述した通り、多くの職場では上司層のほうが長く残業をしているので、その上司が周囲のメンバーに帰りにくい雰囲気を「感染」させているのです。

pp174-175
インタビューで、若い頃の残業の経験を「武勇伝」のように嬉々として語る経営者やビジネスマンは枚挙にいとまがありません。高度経済成長期に「残業が当たり前の働き方」をすることで強烈な成功体験を得た上司たちは、その後の低迷期「失われた20年」を経ても、その時代に獲得した経験や価値観をそのまま「世代継承」してしまっているわけです。

p199
一般に、残業の問題は「従業員個人の能力やスキル」だけに原因が帰属されがちです。「個人の能力が低いから長時間労働が発生する」といった意見は、その代表例です。もちろん、そういう問題を抱えている人もゼロではないですし、無視できない側面ではあります。/しかし私は、この常識は「事実とは違う」と思います。/実際、調査で見えてきたのは、「長時間労働を生み出す要因」の多くが、個人ではなく「職場」や「組織」であることでした。それぞれの要因が密接に絡み合いながら、長時間労働という現象を生み出しているのです。

p202
長時間残業とは、個人に起きる麻痺と残業代依存、組織内で起きる集中・感染、世代間で起きる遺伝といった現象がクルクルと数えきれないほど繰り返される中で、広まり、強化され、定着してしまうものなのです。日本企業の「長時間残業」体質は、この循環構造によって職場で温存されている、とみなすことができます。[…]このように、ある仕事のやり方、ルーティン(仕事の定型)が組織内に「定着」し、いわば「制度」のように機能していくことを、組織論の言葉で「組織学習 (Organizational learning)」と呼んでいます。

p212
残業のブラックボックス化

p212
「会社は現場をわかってない」感が立ち込め、組織への信頼感が低下する

p228
これは、すべてのコミュニケーションに当てはまることですが、「伝えたこと」と、「伝わったこと」は違います。一度言ったから「伝わった」とは限らないのです。しかし、どうも一般に企業・人事は、「一度伝えたこと」を「伝わったこと」だと思いたがる傾向があるように思います。

p238
「オムニチャネル」とはマーケティング領域でよく用いられる言葉で、店舗やネット、モバイルなど、経路を問わず多様な形で顧客との接点を持つ戦略を指します。新しい残業施策を広める際にも、同じメッセージを一斉メールで流すだけでなく、複数のチャネルを適切に組み合わせて告知していくほうが、効果は高まります。

p239
伝達のチャネル数が増えるほどコミットメントが顕著に高まることは、次ページの図表7-3を見ればはっきりとわかります。

p269
「そうはいっても、クライアントワーク(お客様がいる仕事)では難しい」と思う人もいるでしょう。日本では「おもてなし」の言葉に象徴されるように、多くの企業が突発的で頻繁な顧客のリクエストにも丁寧に対応することで、他社との差別化を図っています。

pp269-270
「何が大事なのか」×「職場がどうなっているのか」×「それらを職場でどうコミュニケーションするか」という掛け算で、「やるべきこと」と「やらないこと」を見極め、ジャッジする。/これは、曖昧さの中で働く一般従業員に求めるのは難しく、マネジメント層にしかできないことです。そのためにも、マネジャー自身が「自分の判断の軸」をブレずに持つことが極めて重要です。/「やらないこと」を決められるのは、「やるべきこと」が明確である時だけです。「やるべきこと」が不明瞭で無限化してしまうマネジャーに「やらなくていいこと」は決められません。

p273
伝えたいこと、共有すべきことは、しつこく何度も言葉にする。

p287
当然、意見はぶつかり合います。ですが、ここで重要なのは、「自分たちの未来は、自分たちが決定できる」という感覚を持つことです。

p289
これらのデータを各職場の管理職やキーマンたちに返しながら(サーベイフィードバック)、まずは管理職たちが、この問題をどう考えているのかを対話しました。

p291
「トップやキーマンに強いコミットメントを求める」ことです。[…]「トップによるコミットのない組織開発は間違いなく失敗する」とすら言えます。

p307
議事録文化についても、確かにどんな会議にも丁寧な事録がとられる風習はムダを増加させそうです。

pp315-316
長時間労働という「背伸び」は、内省や振り返り、仕事以外のインプットの機会を奪い、より良い学び、成長の機会を失わせます。「やる気のある個人」にとっても、同じ組織に埋没し、残業に「麻痺」して視野を狭めてしまうような働き方は、この先の長い仕事人生に耐えうるだけの幅を持つ知恵とスキルと経験を身につけるチャンスを、逸し続けていることになります。

p316
終電まで残業した。連続で何日も出勤した。全然寝てない……。/そんなことを競い合ってもたらされる「成長」を礼賛する風潮は終わりにしませんか?/はっきり申し上げます。この「成長」の定義は、今の時代にあっていません。/ライフネット生命の創業者であり、現在、立命館アジア太平洋大学の学長をつとめられている出口治明さんは、働き方改革に様々な提言をされていますが、その考えはとてもシンプルです。良いアイデアは「人、本、旅から生まれる」とおっしゃっています。「成果」の定義が変わっている以上、仕事以外の時間に余力を残し、様々な場所へ出かけて多くの人と出会い、多くの本から学んだことが結果的に良いパフォーマンスにつながっていく、そんな成長のあり方が、次の時代にはふさわしいはずです。

p327
長時間労働、残業習慣は、すでに多くの点で日本の経済の「足かせ」になっています。


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